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(2012/04/02)

映画は「鑑賞」から「体験・事件」の時代に〜『アントキノイノチ』瀬々敬久監督



 海外の映画祭でも高評価を得た映画『アントキノイノチ』。孤独死が社会問題化する日本で生きる若者たちの姿を描いたさだまさしの小説を、岡田将生を主演にリアルに描き出した。監督を務めた瀬々敬久氏はデジタル化による映画を取り巻く環境の変化に対して、「より一層イベント性をアピールしていくことが求められる」と語る。


■自意識がなく、日常感に溢れた若手俳優の演技が刺激に
 さだまさしの同名小説を映画化した『アントキノイノチ』。第35回モントリオール世界映画祭で高い評価を受け、イノベーションアワードも受賞している。さだの小説はこれまでも『眉山』や『解夏』など、たびたび映画化されてきたが、今回は黒沢清作品『トウキョウソナタ』で注目された田中幸子氏が監督の瀬々敬久氏とともに脚本を務め、社会的メッセージも含んだ仕上がりとなっている。

「さださんの原作を魅力的に思ったのは、現在の孤独死が横行する無縁社会を若い視点から捉えていたことです。こうした題材は中高年が主人公になることが多いですが、心に傷を負った若者たちが無縁社会の現状を見たときの反応がストレートに描き込まれている。ここに新鮮さを感じました」(瀬々敬久氏/以下同)

 岡田将生や榮倉奈々の演技は自意識が強くなく、日常感に溢れたリアルさがあり「今どきの俳優の意識の変化を目の当たりにした」と監督は続ける。しかし撮影開始の1週間後に東日本大震災が発生。製作陣の気持ちは大いに揺れることになった。

「こんなときに撮影をしていいのかという気持ちになったのは事実です。それでも実際にテレビで遺品整理をする映像に触れたとき、この作品の存在意義はあるはずだと考えるようになりました。ただ震災後は“絆”が日本の社会全体で謳われるようになり、この作品も、社会での“つながり”の可能性というテーマに、訴求点が変わりました」

 震災によって日本の風潮が一変したことで、映画興行は大きな影響を受けることになった。長い時間を要する映画製作で、こうした事態を予測することは不可能だ。では映画人はどのように対処すればいいのか。

「今までは平穏な日常のなかに、非日常をどう埋め込み、テーマを描き出すか、という意識でいましたが、現在は、非常時が当たり前になり、その間にある平穏を描かなければならない気がしています」

 また、こうした変化以外にも、現在の日本の映画興行界を取り巻く状況も様変わりし、製作者側もそれにどう対処していくかが問われている。

「映画館がデジタル化されていくことは時代の趨勢で止められないだろうし、この危機に対して、ミニシアターなどが、上映システムでも独自性を出し、生き残っていくことを期待するしかありません。興行自体が細分化せざるを得なくなる状況です。僕も映画監督として、今後はさらに自分の仕事の振幅を大きくすることが求められるでしょうね」

 そのために「映画の内容はもちろん、上映方法も、より一層特殊化していくことが必要」とも語る。

「これからの映画は“観賞”ではなく、“体験”や“事件”にしなくてはなりません。イベント性をもっとアピールする必要があると思っています」

 ドキュメンタリー、フィクション、問題作から娯楽作品まで、幅広い作品歴を誇る瀬々監督のような存在が、従来までの“映画鑑賞”とも異なる、新たな映画体験を若年層に訴求していくことこそ、今の日本映画界の振興には必要だろう。



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