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(2016/11/07)

映画と音楽の新しい関係

8月26日に公開され、興行収入164億1081万円(10月23日時点)をあげた『君の名は。』。主題歌「夢灯籠」、「前前前世」、「スパークル」、「なんでもないや」の4曲と劇伴22曲が収録されたRADWIMPSのサントラは初登場1位を記録。累積30.5万枚(11/7付)を売り上げるヒットを記録した (c)2016「君の名は。」製作委員会
06年に坂本龍一に見い出され、シングル「こんにちは またあした」で日本デビューを飾る。以降、現在までに9枚のアルバムを発表。ソロ作品のほか、『新しい靴を買わなくちゃ』『くまのがっこう』『幸腹グラフィティ』など映画、アニメなどのサウンドトラックや多数のCM音楽を手がけるなど、クリエイターからの支持も高い。近年はKIRINJIに加入し、バンド活動も行う


 『君の名は。』大ヒットの要因の1つにはRADWIMPSが手がけた主題歌及び劇伴が挙げられる。同作に限らず近年は、“映画×音楽”の絶妙な組み合わせが活きた作品が多く、映画と音楽の新しい関係が構築されつつある。そこで音楽ライターの柴那典氏に、音楽的側面から見た、近年の邦画シーンを解説してもらった。


■劇伴と主題歌が統一感を持ち世界観に寄与

 記録的な成功を収めている『君の名は。』を筆頭に、日本映画の話題作が相次いでいる16年下半期。これらのヒットからは、映画と音楽の新しい関係が見てとれる。従来の主題歌タイアップの枠組みよりもさらに深く踏み込み、制作まで含めてがっつりとタッグを組んだような作品が結果を残しているのである。ここではその背景にあるものについて考察したい。

 まず今年を代表する1作になった『君の名は。』では、「前前前世」など4曲の主題歌に加え、劇中の音楽全てをRADWIMPSが手がけた。もと もと新海誠監督とバンドは相思相愛の関係らしく、両者を東宝の川村元気プロデューサーが結びつけたことがコラボレーションのきっかけに なった。だからこそ、両者が互いに刺激を与え合うような形で制作は進んでいった。結果、『君の名は。』はストーリー展開の大事な部分をRADWIMPSの楽曲が担う、ある種のミュージカル的なテイストを持つアニメーション映画に仕上がった。お互いが深くコミットしたからこその成功になったといえるだろう。

 同じくアニメーション映画としてヒットを記録している『聲の形』(松竹)も、音楽がとても重要な位置づけにある作品だ。こちらは「曲」というよりは「音響」。聴覚障害を持つヒロインが登場し、コミュニケーションの不全をテーマにした作品だけに、1つひとつのサウンドの響き方にこだわって作られた。この音楽を手がけたのはagraphとしても活躍する電子音楽家、牛尾憲輔。アニメ好きでも知られる彼は、やはり山田尚子監督と以前から相思相愛の関係性だったという。インタビューなどによると、通常の劇伴制作とは異なり、コンセプトワークから共同作業のような形で作業が進められたようだ。このあたりも、『君の名は。』の新海誠監督とRADWIMPSとの関係性に繋がるものがある。音楽を添え物としてではなく、作品の重要な軸として作るという発想がポイントだ。

 ただ、惜しむらくは、ここまで音の響き方にこだわって作ったがゆえに、映画のオープニングで流れたザ・フー「マイ・ジェネレーション」、そして主題歌としてエンドロールに流れたaiko「恋をしたのは」と、サウンドの齟齬が生まれてしまったこと。特に原作の大ファンを公言していたaikoは、とても気合いを入れて主題歌を制作したはず。なので、この曲はaikoの楽曲としてはとてもクオリティの高いものになっているのだが、『君の名は。』で本編と主題歌がシームレスに繋がっていたのと比べると、どうしても映画を観終わった後にエンドロールで空気感の違いを感じてしまったのが正直なところ。昨年公開の『心が叫びたがってるんだ。』(アニプレックス)も実はそうだった。ミト(クラムボン)と横山克が手がけた音楽も、主題歌となった乃木坂46「今、話したい誰かがいる」も、ともに力作だっただけに、両者の音響的な統一感があったらより素晴らしい仕上がりになったのではないかと思う。

 そういう意味で見ても間違いなく傑作だと感じられるのが、11月12日に公開される『この世界の片隅に』(東京テアトル)だ。こうの史代の原作を片渕須直監督が映像化したこの作品。音楽はコトリンゴが手がけている。オープニング曲ではフォーク・クルセダーズの名曲「悲しくてやりきれない」をカバーし、エンディングテーマ「たんぽぽ」はコトリンゴが書き下ろし。同じくコトリンゴの書き下ろしによる主題歌「みぎてのうた」は、こうの史代と片渕須直が作詞を手がけている。主人公を演じる、のんの声が、丁寧な筆致で戦時中の広島市や呉市の生活を描く絵柄とあいまって、優しく柔らかな印象を残す本作。コトリンゴが手がける音楽も、それに完璧にフィットし、独特の空気感を生み出している。

 他にも『何者』(東宝)や『怒り』(東宝)など、劇伴と主題歌が統一感を持ち世界観に寄与している作品が相次いでいる。これらのヒットは、音楽と映画との新たな結びつきを象徴しているといえるだろう。

(コンフィデンス 16年11月7日号掲載)


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