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動画配信サービスに積極的な米スタジオの思惑とコロナ後の映画界

(2020/06/22)




 コロナ禍の影響により、深刻なダメージを受けている映画界。日本映画製作者連盟は、大手配給会社の5月の総興行収入が前年同月比98.9%減となったことを明らかにした。一方、アメリカでは、メジャースタジオ各社がそれぞれ自社の動画配信サービスを続々とスタート。今年4月には、ユニバーサル映画と米大手映画館チェーンのAMCによる新作映画の配信時期をめぐる諍いのニュースもあり、映画コンテンツのメディアにおけるパラダイムシフトが一気に進むのではないかといった憶測が飛び交うこととなった。そんな現況とコロナ収束後の米映画界の変化を考える。

昔も今も変わらぬ収益構造 新作の劇場公開と同時配信が難しい米スタジオの事情

 ユニバーサル映画とAMCの問題は、コロナ禍において映画館が閉鎖され、劇場公開できないユニバーサル映画が、新作アニメ『トローズ・ミュージック☆パワー』をTVOD(都度課金型動画配信)で配信したことに端を発する。劇場のチケット代より割高になる19.99ドル(日本円で約2100円)という料金設定にも関わらず、配信から3週間で1億ドル(約107億円)を超える収益を上げるヒットとなり、ユニバーサル映画側が、映画館の再開後も劇場と配信の両フォーマットで公開する可能性を示唆したことに対してAMCのCEOが「今後ユニバーサル映画作品をAMCでは公開しない」と反発した。

 果たして、コロナ後にスタジオのウィンドウ戦略(メディアごとの公開順序)は変わっていくのか。そういったパラダイムシフトは急激に進むのだろうか。米スタジオの映画の収益構造は、映画館による興行がメインであり、現状では動画配信によるネット視聴は、それに取って代わるメディアにはなっていない。そのため、製作費や宣伝費を回収するのに、大人気シリーズの続編やヒット作のスピンオフなど大作の関連作品といった、よほどの話題性のある作品でなければ、配信のみでのコスト回収は難しいものと考えられる。それもあって、現状では、コロナ禍によって新作公開ができないための配信展開になっている。

 しかし、映画館がコロナ前の状況に戻るには、相当な時間がかかりそうだ。興行のマイナスを埋めなければならないスタジオ側が、配信が劇場公開の90日後という現状のルールを変えようとする動きは起きないだろうか。スタジオの収益配分も一般的に映画館興行では50%だが、配信では80%となる。映画会社側の作業工程やコストも配信のほうが少ないため利益性は高い。最終的な収益で配信が興行を超えるようになれば、スタジオが一気に舵を切る可能性がないとは言い切れない。




コロナ後に映画のウィンドウ戦略は変わる?作品ごとの収益構造が生まれる時代へ

 それに対して、日本でコンテンツホルダー直営の動画配信サービス「MIRAIL」を運営するビデオマーケット代表取締役社長の小野寺圭一氏は、「米映画ビジネスの根幹は、いまも変わらず映画館興行。それをなしにして配信だけでビジネスが成り立つかは疑問です。とはいえ、利益率のよい配信で、劇場興収と変わらない利益が得られるのであれば、日本と異なり、映画製作会社と劇場が垂直統合型ではない米スタジオは、劇場にこだわらなくてもいいという考え方もあるでしょう。ただし、一般的な映画作品で、そういう展開に向いた映画館でのユーザー体験を必要としない作品はそもそも少ないため難しいのでは?」と語り、配信は補完的な位置づけにとどまるというのが妥当な見方ではないか、と分析する。

「米スタジオがかける高額な製作費を支えているのは、それを回収できる映画館での興行から始まり複数ウィンドウで回収する仕組み。ただし、今後こうした複数ウィンドウに対応する個別課金型の配信市場がワールドワイドで広がっていくのは間違いない。その際に、興行より配信が利益を上げるようになれば、同時公開も理論的にはあり得ます。しかし、最初のウィンドウである映画館と同じ価格、同じウィンドウで配信を行ったとして、圧倒的に大きなスクリーンや音響の良さ、イベントとして行く楽しみなどさまざまなユーザー体験を提供する劇場鑑賞と同料金での配信視聴をユーザーが受け入れるでしょうか?」

 また、この先のアメリカにおける新作映画の公開については、「スタジオ各社の動画配信サービスが始まりますが、基本的にはケーブルテレビ契約を配信サービスに切り替える動き(コードカッティング)に浸食されている、ドラマなどシリーズものの番組を主とする有料放送市場のシェア回復が主目的です。一部販促的な意味合いで自社の映画作品を利用することはあると思いますが、新作公開における映画館、TVOD、SVOD(定額制動画配信)の順序はこの先も当分変わらないでしょう」 




コロナ後に復興した映画シーンの新たなスタンダードとは

 今すぐに米映画界のパラダイムシフトが起こることはなさそうだが、数年というスパンになる可能性も高いコロナ後の映画シーンの復興過程において、もし興収が半分になれば、スタジオは製作費を下げるか、制作本数を減らすか、配信ウィンドウ戦略により利益を上乗せするか、作品を作り続けるために選択を迫られることになる。つまり、その過程において、ウィンドウ戦略のシフトが起こることも十分に予想される。
 
 もちろん、そういった作品が経済的に成功するためには、これまでにない公開方法に向いた新たな作品ジャンル、全世界ベースの流通を作らなければならないという難易度の高い前提条件をクリアする必要がある。しかし、新型コロナ危機によって得た教訓から、我々は学ばなければならない。これまでとは異なる新たな時代を築いていかなければならない。そうした方向に映画界が進んだとき、作品のジャンルやタイプ、規模などによって、それぞれ異なるウィンドウ戦略がとられていく、コロナ後に復興した映画シーンの新たなスタンダードになっているのかもしれない。
(文/武井保之)

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