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(2012/04/02)

歌謡曲の遺伝子〜ポジティブに進化を遂げる流行歌

 由紀さおり『1969』のヒット、しかもそれが国境を越えた世界レベルのヒットとなったことで、脚光を浴びている昭和歌謡。日本人の心に郷愁や癒しや活力をもたらした側面も多分にあるだろうが、昨今の歌謡曲人気は、単にノスタルジーに頼ったものではなく、楽曲の質が改めて評価され、新しさと共に受け止められている。思い返せば、かつて巷で流れる曲はすべて歌謡曲や流行歌とされてきた。それが、いつしか、J-POPと呼ばれるようになり、歌謡曲の名前は過去のものとなった。しかし、歌謡曲の遺伝子(エッセンス)は今も生き続けている。懐かしさとしてではなく、ポジティブに進化を遂げる歌謡曲、その新しい価値観、魅力を探り、今後の展開や可能性を考える。


■トレンドのキーワードとして再浮上した“歌謡曲”
 由紀さおりとピンク・マルティーニのコラボレーションによるアルバム『1969』の世界的なヒットという、誰もが予測し得なかった華々しいニュースを受けて、今また“歌謡曲”がトレンドのキーワードとして再浮上している。

 現在の音楽界で歌謡曲という定義に当てはまるものとして、真っ先に思い浮かぶのは今、巷を賑わしているアイドル・ポップスであろうが、少し遡るとかなり狭義な大人向けの音楽ジャンルを指す言葉へと追いやられていた印象が強い。90年代に入ってすぐの一時、日本レコード大賞が<ポップス・ロック部門>と<歌謡曲・演歌部門>に分けて授与された時期があったのはその象徴とも言うべき出来事で、後者はほとんど演歌枠として設けていたように見受けられた。そして、この頃から国内で生産される大衆向けの流行音楽の多くが“J-POP”と呼ばれるようになっていく。

 日本コロムビアで美空ひばりをはじめとする歌謡曲のリイシューを中心に手がけるプロデューサー・衛藤邦夫氏は、レコード大賞の例も挙げつつ、90年代以降は自作自演の時代を迎え、職業作家時代が終焉したと分析する。同時期に、CX系歌番組『夜のヒットスタジオ』で、名物だったオープニング・メドレー(出演者が次に登場する歌手の持ち歌を歌ってリレー形式で紹介していく)がなくなったことを挙げ、歌謡界の変容を指摘したのは、かの大瀧詠一氏であった。

 そうして迎えたJ-POPの時代は、作家よりもプロデューサーに主眼が置かれるようになり、小室哲哉やつんく♂らが頭角を現していったのである。90年代前半にヒットチャートを席捲したビーイングの諸ヒットなども、J-POPとして括られながらも、その旋律やサビの効かせ方の明確さなど、極めて歌謡曲的な要素の濃い音楽と言えるのではないだろうか。

 昔で言うところの“懐メロ”的なポジションに収まりそうになっていた歌謡曲を復権させ、時代に適応した今の音楽として存続させているのは、由紀さおりのような実力と柔軟性を兼ね備えたベテラン勢をはじめ、若きDJや映像作家、リイシューCDを手がける研究者まで、様々な力が作用していると考えられるが、やはりなんと言っても、アイドル戦国時代と呼ばれる中で拮抗する彼女たちに、作品や活躍の場を提供する作家やスタッフの存在が大きい。なぜなら幼き頃に歌謡曲を存分に浴びて育った彼らが描く現代のアイドル像は、根本的に70〜80年代のアイドルの再生というテーマに基づいているからである。


■脈々と受け継がれている歌謡曲の遺伝子
 音楽のみに限らず、いつの世も流行りものの陰には必ず作り手側の努力があり、その労苦が大きな魅力となって大衆の心を掴む。様々な偶然が重なり、そうした才能が集結することで、時としてそれは社会現象へと至り、歴史の1 ページとなる。

 秋元康氏が率いるAKB48の人気によってもたらされた現在のアイドル・ブームも、歌謡曲の長い歴史における重要な一場面である。そこには、昭和の時代から活躍を続けてきた秋元氏以外にも、時代に即した新しい才能が育ちつつあり、歌謡曲というジャンルの捉えられ方も、彼らの活躍によってさらに変貌を遂げていくであろうと思われる。

 幅広いジャンルを手がける中で、歌謡曲へ熱烈なアプローチを掲げている小西康陽氏もまた、歌謡曲のフィールドを独自の視線で耕し続けているひとりである。楽曲提供だけでなく、昭和の歌謡曲シーンではまだ表現方法が確立されていなかったオマージュの具体例、主にリミックスという方法で歌謡曲へリスペクトを捧げている。

 木村カエラ「Butterfly」などの楽曲提供も手がけるミュージシャンの末光篤氏もまた近いスタンスにある。さらに、ももいろクローバーZをはじめとする多くのアイドルやアニメ音楽に健筆をふるいながら、シンガーも兼ねる前山田健一(=ヒャダイン)氏は、小西氏の影響を色濃く受け継いだ、言わば第3世代にあたるクリエイターである。彼らは歌謡曲の遺伝子を未来へと継承していく重要な担い手であり、現在の音楽シーンの鍵を握る重要な人物たちである。まだまだ多くの可能性を秘めた歌謡曲の今後の展開にも大いに期待が高まる。



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