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ヒットの背景に見え隠れする現代社会の「息苦しさ」「生きづらさ」

(2017/12/12)

自己啓発本のヒット作が示す世相

2017年の年間本ランキングを見ると、昨年夏に発売されて以降、ロングセールスを続けていたベテラン作家・佐藤愛子のエッセイ『九十歳。何がめでたい』(65.8万部)が【BOOK(総合)】で1位を獲得。「うんこ」を題材に使い、シリーズ合計で200万部を売り上げた大ヒット学習教材『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』が、2位『〜小学1年生』を筆頭にTOP50内に6冊ランクイン。3位には、手帳でお馴染みの高橋書店から発売された『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(52.5万部)と、「うんこ」や「ざんねん」といった、思わずニヤリとしてしまうユニークなタイトルの書籍が上位を賑わせる結果となった。

 率直に物申せない今の時代に、あっけらかんと本音を綴った内容で中高年の女性を中心に多くの共感を集めた『九十歳。何がめでたい』。本書のヒットの背景には、匿名性の高いインターネットでの誹謗中傷が横行する現代社会の息苦しさに辟易する人々の姿が見てとれる。そこで、今回は、少なからずその時代の世相が反映する自己啓発本のヒット作の推移から、近年の傾向を見ていく。
 「自己啓発」とは一般的に、「本人の意思で、自分自身の能力向上や精神的な成長を目指すこと」と定義されている。人々が自己啓発本を手にするのは、仕事はもとより人生についての思考方法や実践方法を得たい考えるときだ。
2010年以降のヒット作を見ていくと、大きく分けて下記の4つのテーマに分類されるようだ(下図参照)。
@自己改革
A感情コントロール
Bコミュニケーション
C先人の教え(言葉)

成功法則ではなく本質的な答えを模索する読者



 今年、自己啓発カテゴリで1位となったのは、昨年に引き続き『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(岸見一郎,古賀史健・著/13年12月発売)だった。14年3位(41.5万部)→15年4位(34.4万部)→16年1位(53.5万部)→17年1位(27.9万部)と、発売以来、4年連続で同カテゴリTOP5内にランクインしている。対人関係を改善していくための方策を、「青年と哲人の対話篇」という物語形式でわかりやすくまとめた本著は、日本のみならず、韓国や台湾でも大ヒット。その背景には、閉塞感漂う現代社会の「息苦しさ」「生きづらさ」があるようだ。2010年代に入ってからの、自己啓発本ヒット作の推移を見ると(図参照)、2010年に年間1位となった『超訳 ニーチェの言葉』(61.6万部)がブームとなった同時期には、政治学者マイケル・サンデルの『これからの「正義」の話をしよう』などもヒットしていた。ひと頃流行っていた“成功法則”関連本に飽き足らなくなった読者は、もっと本質的な答えを求めて哲学がらみの本に手を伸ばした。本書も、このヒットの流れにあるものと考えられる。

 2位は『君たちはどう生きるか 漫画版』(25.2万部)。岩波新書や雑誌『世界』を創刊、護憲・平和運動に尽力したことでも知られるジャーナリスト・吉野源三郎の小説が原作だ。17年秋にTVバラエティ番組で紹介されたことで火がつき、さらにはアニメーション監督の宮崎駿氏の新作アニメのタイトルが同書から取られた話題性もあって売上は大きく伸長した。通称コペル君と呼ばれる少年が「おじさん」と、日々の暮らしのなかで体験したさまざまな出来事を語り合ううちに、精神的に成長していく過程が描かれた本書が出版された1937年は、日本の軍国主義が日増しに深刻になっていった時期である。80年前に出版された同書がこれほど読者の共感を得ているというのは、当時と今の社会的背景が似通ってきている表れなのかもしれない。

自己啓発のヒットメーカー・ホリエモン

 3位はホリエモンこと堀江貴文の『多動力』(23.5万部)。22位には『好きなことだけで生きていく。』(9.0万部)、27位には『本音で生きる 一秒も後悔しない強い生き方』(7.7万部)と、3冊がTOP30内にランクインしている。「多動力」とは、いくつもの異なることを同時にこなす力を指す。あらゆるモノがインターネットにつながった、フラットに開かれたこの時代には、「1つのことをコツコツとやる」価値観を捨てて、軽やかに越境していく力が必要だと説いている。

 4位は『GRIT やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』(21.8万部)。人生で成功するために必要な能力は、資質よりも「情熱」と「やり抜く力(GRIT)」であることを、心理学のさまざまな理論を元に、多角的に検証した本書。著者のアンジェラ・ダックワースは、米国内では「天才賞」とも称されるマッカーサー賞を受賞したペンシルベニア大学の心理学教授。心理学、神経科学から経済学まで最新の科学的成果を盛り込んだレッスンで大きな注目を集めた、ケリー・マクゴニガルの『スタンフォードの自分を変える教室』(13年2位/54.7万部)同様に、こちらもまだまだ話題が続きそうである。

共感するエピソードと読後の爽快感が魅力

 5位は『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(21.8万部)。著者は大手生命保険会社を定年まで勤めた元サラリーマン・楠木新。40歳後半の休職をきっかけに、仕事と並行して「働く意味」をテーマに取材を行い、執筆活動を行うっている。定年退職後に多くの人がぶち当たる壁を乗り越えるノウハウが、様々なエピソードを散りばめながら綴られている。身近で説得力のある内容が、対象とする世代だけでなく若い層の共感も得ているようだ。
 
6位、7位には、橋幸枝の『こころの匙加減 100歳の精神科医が見つけた』(19.4万部)、佐藤愛子『それでもこの世は悪くなかった』(18.1万部)と、高齢の筆者が人生を綴る本が並んだ。アラハン(アラウンド ハンドレッド)本に商機あり――、各社がそう気づいたのは、ノートルダム清心学園理事長・渡辺和子氏のエッセイ『置かれた場所で咲きなさい』(12年4月発売)の大ヒットだ。高齢社会を迎えるなか、人生を生き生きと過ごす先輩の生き方を学びたいと、中高年女性の支持を集めて、200万部を超えるベストセラーとなった。以降、現役美術家として活躍する篠田桃紅、100歳で精神科医・高橋幸枝、評論家の吉沢久子らの、自分の人生をまとめた「自分史」が人気を集めている。
 人生の先輩たちは、読者の共感しやすいエピソードで「心のあり方」や「生き方」を示してくれる。読後の爽快感は、閉塞感漂う現代社会を生き抜くための、一服の清涼剤のような役割を果たしているのだろう。



(調査期間)
2010年度: 2009年11月23日〜2010年11月21日/2011年度: 2010年11月22日〜2011年11月20日
2012年度:2011年11月21日〜2012年11月18日/2014年度:2013年11月18日〜2014年11月16日
2015年度:2014年11月17日〜2015年11月22日/2016年度: 2015年11月23日〜2016年11月20日
2017年度:2016年11月21日〜2017年11月19日

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